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たった1日だけの旅(8) 夜明けのタクシー

バンコクの夜。
あの旅でたった一度の夜を眠れないまま過ごした。
安宿の窓ひとつないシングルルームを右往左往して過ごした。
手術中の母を思い、動転しているであろう父を思った。
救急車のどさくさで脱走してしまった猫のアジャリを思い、妹たちを思った。
時間がわからなくなった頃、携帯が鳴った。
父の声が
 「今、手術が終わった。
  成功したが、まだどうなるかはわからない」
と告げた。

朝5時。
1泊分だけ払ってチェックアウトする。
空はまだ暗かった。
夜明け前のいちばん暗い時刻だ。
ホテルの人がタクシーを呼んでくれた。
 「Good morning!」
ドライバーは英語で陽気に話しかけてきた。
グッドどころか最悪の朝なのに。
 「お客さん、日本人?
  観光かい?」
うっとおしいと感じた。
今はおしゃべりする気分じゃない。
イエス、と短く答えて会話を切り上げたかったが
 「日本に帰っちゃうの?
  タイは初めて?」
タクシードライバーの定型文で話しかけてくる。
そしてお定まりのこの質問。
 「何日間タイにいたの?」
 「1日」
 「・・・え?」
 「1日!」
ワンデイ。
24時間。
バンコクに到着したのが昨日の朝だったから、ちょうど1日だよ。
 「ほんとはもっといるつもりだったんだけどね。
  イサーン(東北)からラオスに入るつもりだったんだけどね。
  母が急病で死にかけてるから帰るのよ!」
乱暴な口調になってしまった。
 「そう」
とだけ彼は言った。
ルームミラー越しにみるドライバーの顔は40代後半。
服も清潔だし、誠実そうなおじさんだ。
タイのドライバーにしては英語もうまい。
彼は、静かな声で話しだした。
 「ぼくの田舎はイサーン(東北部)にある。
  ラオスの国境に近いところだ。
  のどかな田舎だよ。
  何もないけど、とてもいいところなんだ。
  ソンクラーンには家族みんなで毎年帰るんだ」
ソンクラーン。
4月の水かけ祭りのことだ。
予定では、イサーンでお祭りをみようと思ってた。
それからラオスに入るはずだった・・・。
 「じゃあ、来年のソンクラーンはうちにおいで。
  我が家に招待してあげるから、いっしょに祭りをみよう」
彼はルームランプをつけると名刺をとりだした。
 「来年、かならず、電話してくれ。
  カミさんと息子と娘に話しておくよ。
  きっとみんな喜ぶ」
・・・来年。
来年の4月に自分がどうなってるかなんか想像がつかない。
今のことだけでいっぱいいっぱいなのだ(今でもそうだけど)。
それでもその瞬間は、夢をみた。
一瞬だけど夢をみた。
おじさんとおじさんの家族といっしょにタイの田舎で過ごす夢。
それはきっと楽しい祭りだろう。
 「ありがとう」
と私は言った。
タイ語で言ってみた。
おじさんは笑顔で返した。
 「きっとだよ」
と。
タクシーが空港に到着し、私の短い旅は終わった。
最後にバンコクの空をみあげると、しらじらと明けていくところだった。

| タイ・たった1日だけの旅 | 22:49 | comments:6 | TOP↑

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たった1日だけの旅(7)バンコクの夜

ハンバーガーの夕食のあと、宿に戻った。
インド系の安ホテルだ。
スタッフも客も全員インド人。
レストランの食事もぜんぶカレー。
全館デリーみたいな香りが漂っている。ここバンコクなのに。
1階のカフェでコーヒーをのみながらネットをした。
家族とLINEでやりとりをしたり、メールやブログを書いたり。
1時間ほどくつろいでから部屋に戻った。

シャワーと洗濯をすませたとき、携帯の着信に気づいた。
叔母からだった。
かけなおすと
 「お母さんが倒れて救急車ではこばれた」
と報された。
 「脳出血でかなり危ないの」
私は思わず
 「また!?」
と叫んだ。
不謹慎だけど、2年前にも同じようなことがあったから、またそんなことになるなんて、驚いたのだ。
だけど脳出血。
2年前より深刻だ。
事態は急を要している。
 「すぐ帰る!」
と電話を切った。

でも、私、どうしよう。
どうしよう。
どうしたらいいのだろう。
・・・航空券。
日本に帰る航空券を買わなくちゃいけない!

パスポートと財布を握りしめて部屋をとびだした。
階段をかけおり、鍵をフロントに投げ捨てた。
インド人のお客さんとぶつかりながらホテルのドアを開け、転がりでた。
夜のバンコクに。

 「うーん」

ハタと立ち止まる。
航空券ってどこで買えるっけ?
旅行会社はどこにある?
地図とかなんにも持ってない。
それにこの時間ならもう閉まってるかもしれない。

安宿街として有名なカオサンに宿泊していたのならすぐに旅行会社が見つかったと思う。
だけど私の宿は実に中途半端な位置にあった。
安宿街でも繁華街でもない。
昼にはローカルな市がたつものの、日が沈むと人通りもぜんぜんなくて真っ暗けだ。
こんな暗い夜道、歩けるわけがない。

3歩もいかずにホテルに引き返した。
ドアを開けるとすぐ、フロントのおじさんが立ち上がってこちらに来た。
 「どうしたんだ?」
と声をかけてくれた。
1時間前までふつうにコーヒーを飲んでた外国人が、急にルームキーを放り出して飛び出したかと思えば3歩あるいて帰ってきて、真っ青な顔で立ちすくんでいるのだから、そりゃあびっくりしただろう。

私はむちゃくちゃイングリッシュでまくしたてた。
 「私は日本に帰らなくてはならない。
 いますぐ帰らなくてはならない!
 旅行会社がどこにあるか教えてもらえますか?」
英語なんかほとんど出てこなかった。
『いますぐ』という熟語がでてこなくて、
アズスーン、なんとか!
とかいってた記憶がある。
おじさんはフロントのカウンターからでてきて、私の目をのぞきこみ、肩に手をおいた。
 「まず、落ち着け」
彼は私に座るよう促した。
 「何があった?」
私が腰かけたのは、さっきまでコーヒーを飲んでいたカフェの椅子だった。
あのときはなんにもしらなくて、母とLINEのメッセージを交わしていたのに。
すべては一変してしまった。
私はインド人のおじさんに、むちゃくちゃイングリッシュで伝えた。
全力で伝えた。
 「日本から電話がありました。
  母が病気で死にそうなんです。
  すぐに帰らなくてはなりません。
  旅行会社がどこにあるか教えてもらえませんか?」
あいかわらず動転していて英語なんかちっとも思い出せなかったけど。
なにしろ必死だったから伝わった。
おじさんは相変わらず私の目をみてこういった。
 「よし、よし、わかった。
  俺がなんとかするから。
  旅行会社に電話して航空券を手配しよう。
  どこの空港だ? 大阪か。
  バンコク発大阪行きでいいか?
  手配できたら呼ぶから、とりあえず君は部屋に帰っていなさい」

いわれるがままに階段をあがった。
部屋に帰っても、頭は混乱したままだった。
いろんなことをやりかけては、こんなことしている場合じゃないと投げ出し、またうろうろした。
あちこちに電話をかけ、父や妹と話し、そしてまた檻にとじこめられたキツネみたいにぐるぐる同じところを歩きまわった。

やがておじさんがeチケットを持ってきてくれた。
 「今夜の便は間に合わないから明日の朝いちばんのタイ航空でいいか。
  できるだけ値切ったけどな、高くて申し訳ない」
値段なんてどうでもよかった。
ネットで安いチケットを探してる場合じゃない。
 「5時にタクシーを呼んであるから。
  4時にはモーニングコールをしてあげよう。
  君は何も心配はいらないから。
  まだあと4時間あるから、いいかい、ちょっとでも眠るんだよ」
私は何度もお礼をいっておじさんと別れた。
いいおじさんだった。
あのおじさんがいなければ、本当にどうしていいかわからないところだった。

解いたばかりの荷物をパッキングしなおし、布団に入ったころ、ちょうど日付がかわった。
おじさんは眠りなさいといったけど、やっぱり眠れるわけがない。
さまざまな思いに囚われながらバンコクでたった一度の夜を過ごした。
長い、長い、長い夜だった。

ホテル

| タイ・たった1日だけの旅 | 22:36 | comments:4 | TOP↑

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たった1日だけの旅(6)大失敗

ワット・ポー、ワット・アルンというバンコク屈指の観光名所を2つ巡っただけで日が暮れた。

チャオプラヤの夕暮れ
(チャオプラヤ川の夕暮れ)

おなかもすいてきた。
晩ごはんはカオマンガイの美味しいお店を予定している。
だけど・・・。
疲れた。
疲れちゃった。

バンコクは活気があって楽しいけれど、排気ガスと騒音もまたすさまじい。
前日、寝ていないせいもあるだろう。
次の日から始まる(はずの)本格的な旅を前に、体力を温存しておかなければならない。
静かな店で一休みしたい。
そう思った私は、大きな失敗を犯した。
日本でもおなじみのファストフード店に入ってしまったのだ。

ワーイをするドナルド

私ってどこまでアホなん!?

たった1日の旅で、一度きりの夕食がハンバーガーて!

もちろん、このときは、たった1日で帰ることになるなんて知らなかった。
これが最初で最後の夕食だなんて想像もしてなかった。
だから
 「カオマンガイは明日でいいや」
とハンバーガーを食べちゃった。

・・・旅の教訓。
食べたいものから真っ先に!

明日なんて、くるかどうかわからないんだから。

| タイ・たった1日だけの旅 | 23:17 | comments:0 | TOP↑

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たった1日だけの旅(5) ワット・アルンからの眺め

ワット・ポーの次は、川をはさんだ向いにあるワット・アルンを訪れるのが定番だ。
色とりどりの陶器でかざられた美しいお寺。

ワット・アルン

季節はちょうど旧正月。
お寺の石像たちは、赤く可愛いリボンをつけてもらっていた。

えっへん

 「えっへん!」
 「似合うだろう?」

リボンがかわいい


ちなみに、川岸の偉そうなひとの立像には、
リボンではなくなんか違うものが飾られていた。

頭のうえになんかいる

・・・頭のうえになんかいる・・・(クリックで拡大)


ワットアルンの塔の上からは、チャオプラヤ川ごしにワット・ポーを望むことができる。

ワットアルンからの眺め

・・・この後ろ姿。
皆さん、覚えていらっしゃいますか?


キャプテンです!

キャプテン@ワット・アルン


こぶんも一緒です!

こぶん


にゃんこもいます!

にゃんこ

でも・・・猫の数、少なかった。
ワット・アルンは猫の名所のはずなのに。
こんなの初めてだ。
ちょっと残念。
時間帯かな?

| タイ・たった1日だけの旅 | 22:27 | comments:0 | TOP↑

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